ウイングアーク テクノロジーズ株式会社 営業本部
サービス&グローバルビジネス推進室 室長 岩本幸男

SaaSは営業支援や顧客管理などのフロント業務を中心に普及・拡大していますが、昨今、基幹業務を対象としたサービスを提供するベンダーが登場し始めています。業務アプリケーションをネットワーク越しに利用できるという便利さ、そして利用した分だけお金を払えばよいというサービスモデルは、変化の早い、先の見えないビジネス環境下では有効な手段となります。システムを保有せず、利用するというSaaSのサービス提供モデルは利用者にとって「投資」というリスクを回避できます。中小零細企業にとっては、大企業と同等のシステムを安価に利用できる時代が目前に迫りました。
しかしながら、その便利さの一方で日本のビジネスには欠かせない帳票・レポート出力が課題となっています。企業における「業務の流れ」は「帳票の流れ」によって支えられています。そのため、業務の効率化を様々な局面で支える帳票、例えば、伝票・納品書、見積書・発注書、請求書・会計帳簿類、申込書・申請書、工程管理表・提案書などを抜きにSaaS利用を検討することはできません。
また、出力環境だけではなく、入力環境にも大きな変化が起きています。パッケージ利用の場合は、そのアプリケーションにあった専用入力機器が利用されていますが、SaaS環境ではWebブラウザを基本とした入力インタフェースとなります。Ajax(※1)を活用して作り込むことも可能ですが、高額な構築費用が必要です。
本稿では、今後のSaaS環境でのサービス利用に関わる入力、そして出力部分にフォーカスして課題と解決の方向性を示唆します。
なお、ASP、オンデマンド、ユーティリティなど類似のものがありますが、混乱をさけるため全てSaaSと記載しますので皆さんの都合で解釈してください。
(※1)Ajaxとは:
Ajax(エイジャックス)は、Webアプリケーションのユーザ・インターフェイスを構築する技術のひとつです。Webブラウザ上で多様な表現を可能にすることができます。
さて、本来SaaSを利用する理由はどこにあるのでしょうか。メリットがなければブームに乗ってSaaSを採用したものの結果が出せないということになります。SaaSにはサービス提供者、サービス利用者の双方に大きなメリットがありますが、ここでは利用者のメリットについて代表的な例を挙げてみましょう。

IT初期投資の軽減とランニングコストの費用化
高額のパッケージを購入する必要がなく、通常小額の初期費用と月額利用料でサービスを受けられるため導入しやすく、また月額利用料は費用として計上可能であり、通常のパッケージ購入時のように数年に渡る減価償却の必要がありません。
IT設備機器の運用管理費の低減
自社でサーバを購入し運用する必要がありませんので、情報システム部員を持たない企業でも安心してサービスを利用することができます。人的リソースの確保ができないばかりでなく、サーバ機器を設置する場所も確保できない場合がありますが、SaaS利用の場合はインターネットに接続可能な安価なPC、もしくはシンクライアント、PDA、携帯電話、スマートフォンなどがあればサービスを利用することができます。
いつでも最新のサービスが利用可能
提供されるサービスはSaaS事業者側で最新の状態に管理されますので、利用者はいつでも最新のソフトウエアサービスを利用することができます。ソフトウエアのバージョンアップは、利用者にとって負荷の大きな作業ですが、SaaSの場合はセンター側で常に最新バージョンに維持されているため、利用者はバージョンアップについて考える必要がありません。
コアコンピタンスへの資源集中
様々なSaaSを利用することで、自社の経営資源を本業に集中させることができます。IT活用は必要ですが、サーバ機器の運用やソフトウエアの保守に大きなコストを費やすことは無駄と言えます。
等々、たくさんのメリットがあります。
しかしながら、企業全体を見たときにコストと時間を費やしているのは、各業務間の連携、そして他社との連携部分です。ビジネスフローは単一企業の単一サービスでは完結しません。となると、SaaS導入による期待した成果を得るためには、その各業務間の連携、そして他社との連携部分を効率よくするために活用される「帳票」が、以前にも増して重要な意味を持つことになります。
一般的な製造業を例に業務の流れに沿って帳票の流れを確認してみましょう。たとえば、取引先と営業部門の間では、見積書や注文書のやり取りが行われます。また営業部門と資材部門の間では、発注書が取り交わされ、製造指図書が製造部門に出され、出荷伝票や検品書と共に製品が流れ、最終的に注文された商品がお客様の手元に届く際には、物と共に納品書・受領書が渡されます。

そして、本社内では、月次書、集計表なども出力されています。帳票の流れは業務の流れとなって、企業システムを支えています。帳票は情報の伝達手段として必要不可欠な存在となっているのです。帳票は大変重要な役割を担っているにも関わらず、出てあたりまえと見られることが多く、意識されないのです。
皆さんが検討されているSaaSは、このあたりまえの帳票が現状システムと同じように出力されるでしょうか。もし、出力されないのであれば、先述したSaaS導入のメリットを享受できないうえにブームに乗っただけの最悪の結果が待っていることでしょう。
帳票は出てあたりまえなのですが、改めてシステムを振り返ると、次のようなことを感じたことはありませんか。
システム全体での帳票の割合が意外と大きい。
帳票を出すためにシステムが動いているように感じませんか。
システム環境への依存度が高い。
システムが構築されたOSや、印刷するプリンタの機種に変更が生じると印刷アプリケーションも作り直しになりませんか。
帳票部分の切り出しが難しい。
コアな業務ロジックと帳票ロジックが複雑に絡み合い、保守が面倒になっていませんか。保守が面倒なのに、現場では毎日のように帳票フォームの変更要求が発生します。
新しい法律への対応。
電子帳票、e文書法、J-SOXなどへの対応はとても大変です。
ところでSaaS環境では、既存システムでは当たり前にできていたスプール管理や大量印刷、運用はどうなるのでしょうか...
こうしてみるとビジネスの本質である「情報の交換」は、帳票をベースに行われていることが良くわかります。ビジネスの発展に伴いビジネスの本質である情報交換のノウハウは帳票に集約され日本の誇る帳票文化を発展させてきました。SaaSを検討するにあたり帳票の意味・意義を再考する機会を持っていただければ、「SaaSの落とし穴」に落ちることなく、真のSaaSのメリットを享受できることでしょう。
